
スーダンにおける医療見学を含めた実習の感想
鳥取大学医学部医学科 3年
朴 大昊
(2006年8月9日〜22日)
スーダンに来てから2週間と本当に短い間でしたが、ロシナンテスにお世話になることで、単に旅行したのでは体験できないような人や施設に出会い、この短い期間をとても充実したものにすることができました。
ハルツームでは、Khartoum Teaching Hospitalにはじまり、ハルツーム大学、イブンシーナ病院、ウンドゥルマン Teaching Hospital、UNISEF、国境なき医師団事務所、Doctor’s Clinicなどを訪問しました。
臨床医学や感染学をまだ学んでいない身ではありましたが、ハルツーム大学のInstitute of Endemic Diseaseのマウイア教授のお話を伺ったときは、真摯にスーダンの風土病問題を考える姿を拝見し、また、カラアザール患者やマラリア、鎌状赤血球など日本ではなかなか目にすることはできない、もしくはまだ勉強していないことまで勉強させていただきました。ますます感染症に対する重要性を認識し、勉強のモチベーションが向上したことはいうまでもありません。
また特に、イブンシーナ病院、ウンドゥルマンTeaching Hospitalにおいて、日本から来られていた廣瀬先生と共に手術室に入り手術を見学できたことは印象的でした。自ら砂の舞う廊下を歩き、手術室のベッドへ歩いていく患者たちの姿、手術中にコンセントが切れて麻酔が止まったり、携帯電話が鳴って会話が始まったりしても動じない人々…日本とのギャップに驚くことがたくさんありました。多くのドクターが語っていたようにスーダンの医療にはシステムの問題が大きくのしかかっているのだろうということは、病院、町並みを見て回ることで肌を通して感じることができました。
ウンドゥルマン大学医学部長のDr.イブノフの食事会に参加しお宅を伺ったときも、とても豪華なその一角と一歩出ればとても貧しい生活とが共存しており、スーダンの抱える社会問題を垣間見た気分でした。
また、Dr.イブノフをはじめとする多くのドクターと話をさせていただく中で、国立病院に勤めつつ、Private Hospitalの経営をするというスタイルを聞き、日本との違いに興味を持ちました。実際にPrivate HospitalであるDoctor’s Clinicを訪れてみると、その清潔感や携帯電話の使用、喫煙に対する意識の高さに驚きました。しかし、Private Hospitalは金銭的な問題もあり、一部の人々にしか門戸が開かれていないというのもスーダンの、そして将来の日本の医療が抱える問題であると思いました
地方ではガダーレフ州のドカ、北部州のアルグレイルに行きました。ドカでは水資源は足りているものの、それによりマラリアの患者が多く、アルグレイルでは逆に水資源が不足して水を引いてくることが最優先課題であるように感じました。
特にドカの病院において、初めてマラリアやリーシュマニアの患者を見て触り、その町に滞在したことは非常に印象的でした。まず、マラリアは蚊を媒介して感染するため、蚊がいる街の中でマラリア患者に近づくことに私自身恐れがあったのですが、その患者に触れ、肌の温かみを感じられたことは一生忘れないでしょう。まだ日本でも患者に触れていないのですが、川原さんの指導の下、リーシュマニア患者の肝臓、鼠径リンパなどに触れ、病気をリアルに感じられたことも、臨床医学にとても強い意欲をわかせてくれました。
ドカではまた、幼い頃火傷をした患者の美容形成手術を希望する話も聞きました。地方というだけで、プリミティブなSOLのための医療しか行われていないと漠然と考えていましたが、むしろ地方だからこそ患者の精神的なケアが遅れており、SOLとQOLが同時に必要とされていることを感じました。国際医療には単に外科や内科だけでなく、精神科や形成外科など多様な専門医が必要だと気づかされました。
また、ドカにおいてもアルグレイルにおいても、コミュニティーの中にPrimary Health Careの概念が定着していないのを感じました。将来、国際的な公衆衛生に関わっていきたいと考える私にとっても、スーダンの地方における衛生環境改善のために医療だけでなく、教育や水資源の確保、道路の建設などの果たす役割の大きさを感じました。
ハルツームでは私が国際機関やNGOに興味があるというと、病院だけでなくUNISEFの竹友さん、Dr.Nasserをはじめ、WFPの川端さんなどを紹介していただき、国境なき医師団にも訪問することができました。
とくにUNISEFにおいてはWHOやUNISEFなど、なかなか具体的な活動が分からない国連職員の待遇や仕事内容を直接聞くことで、自分の興味関心をより具体的な目標として認識することができました。
医務官を辞めNGOロシナンテスを立ち上げられた川原さんやUNISEFの竹友さんなど、私の将来のロールモデルとなる数多くの人の生き様を目撃することは、非常に参考になりました。NGOを作って活動していくメリット、デメリットや国連機関に勤めるメリット、デメリットが実体験を通して伝わってくるため、とても説得力がありました。特に国連機関の金銭、政治に対する強さはロシナンテスにいるからこそ感じることができましたし、その分、あまりにもシステマチックなために個人のできる活動に制限があるという問題は興味深かったです。逆に、ロシナンテスを見ると、活動をはじめようにも活動できない歯がゆさ、大規模な活動がなかなかできない歯がゆさを感じるとともに、スーダンの文化を大切に、現地に密着した活動ができると思いました。
最後になりましたが、僕が今回の訪問で最も印象に残り感動したのは、スーダンの人々の心に触れた場面です。まず、東洋人が少なく見慣れないはずであるのに、ハルツームにおいても地方においても人々が温かく受け入れてくれました。初対面の人に「サラマレコム」といって会釈をしたり、客人にシャイ(紅茶)や豪勢な食事を振る舞ったりする人々の心触れるにつけ、思わず自分の暮らす日本と比べ、豊かさとは何なのか、自分は国際保健の舞台で将来何がしたいのか、大いに考えさせられました。アルグレイルで地元住民の家を訪れたとき、50℃近い気温の中、自分達は濁った生ぬるいかめの水を飲みながら、私達にはよく冷えた炭酸ジュースを出してくれました。あの味は忘れることがないでしょう。
また、ドカで火傷の患者の家に訪問したとき、決して豊かとはいえない暮らしぶりでありましたが、子どもの美容形成手術のためなら大金を払う準備があると伝える親の真剣な姿には大いに感動しました。家族の愛情や医療に期待する気持ちは世界中変わらないと思うとともに、何とかしてこの患者を助けたいと思いました。しかし、同時に国際医療団体が患者の金銭的な負担までしてしまうのはその国やその国の人のためにならない、とする川原さんの考え方にも賛同します。ここに国際医療の難しさの一端を見た気がしました。患者が日本で入院し、手術を受けるとその費用だけで82万円かかるそうです。
2週間という短い訪問でしたが、はじめて臨床医学、熱帯医学に触れ、自分の将来と真剣に向き合い、とても有意義に過ごせたと自信を持っています。国際保健を志したものの、今までその現場を見たことのなかった私は、先輩の紹介を受けてスーダンのロシナンテスに飛び込みましたが、改めて国際保健への想いを強くしています。たとえ将来、発展途上国の地方において臨床医として働かず、公衆衛生のデスクワークに従事したとしても、ドカやアルグレイル、またもっと医療の行き届かない地域があること忘れず、同時にその文化を大切に考えていける人間になれるようこれからも勉強に励んでいきたいです。