特定非営利活動法人ロシナンテス

活動報告ブログ

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川原ブログ2016.07.25

日本・スーダン交流事業 氏川智皓先生

いつも、ロシナンテスを応援して下さり、ありがとうございます。

さて、ロシナンテスは、スーダンと日本、双方の良い点を学び合い、それを自分の国、自分の場に反映させる意図で、交流事業を行ってきました。

今年の3月に亀田ファミリークリニック館山から、氏川智皓先生がスーダンに研修に来られました。氏川先生は、家庭医を専門とし、ロシナンテスが行っているスーダンでの地域医療を視察するのが目的です。

氏川先生の研修記を掲載いたしますので、ご一読下されば幸甚です。

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 今回は私が勤務する亀田ファミリークリニック館山院長である岡田の紹介で2週間の短期研修をさせていただいた。

大きくはvillage midwife宅の訪問、ロシナンテスがサポートしているmobile clinicへの同行、ウンドゥルマン産科病院の見学、川原先生に同行させていただいて各種会議への参加をさせていただいた。

 南スーダンの分離独立による石油資本の減少、欧米諸国からの経済制裁により物価が急速に上昇しており、治安も少しずつ変化しているという事だった。しかし、現地で滞在している感覚としては、外国人観光客は少ないものの、世界遺産は身近に見ることができ、スークも地元用で非常に活気があり、夜遅くまで街角で多くの人がお茶(シャイ)を飲んでくつろいでいる様子からは首都ハルツームを見る限りでは人々の生活は安定しているように見えた。一方で、一足ハルツーム市内から足をのばすとそこには全く別の世界が広がっていた。岩漠がどこまでも広がり、乾燥した大地に時々現れる土でできた土塀にヒトの気配を感じる程度だった。なぜこんなにも過酷な環境の中で住み続けるのか。人間の環境適応能力に驚くとともに、郷土愛や住むという事について考えさせられた。

 今回の研修では様々な会議や現場を見させていただいた。その中で文化、人種、言語、社会構造、宗教、あらゆるものが異なる状況から、日本とスーダンそれぞれ固有の問題点あるいは共通した課題がある事がリアリティーをもって見えてきた。ここではそうした日本とスーダンの独自/共通の課題を紹介したい。

 まず、ニーズの拾い上げと提供者のビジョン/ミッションとのすり合わせの重要性。 スーダン人にはスーダン人なりの価値観や論理がある。我々からは問題があると思われるような現状に関しても彼らは問題を感じていないし、改善したいとも思っていない事がある。ノウハウの部分の援助は不要であり、不足しているのはそれをやる上での物資や資金でありそれを支援してほしい、というニーズが現場では大きいのだ。実際に彼らと過ごしていると、彼らは彼らなりのやり方や努力、ペースで日々過ごしているのだ。30年後のスーダンはどうなっているのだろうか、彼らはどうなりたいのだろうか、彼らは本当に発展を望んでいるのか。少なくとも30年後に今の日本のようになっている事は望まれていないだろうし、期待できないだろう。スーダンらしい発展とはどういった形なのか、と考えさせられる。しかし実はこれはスーダンに限らず、日本の地域での活動にも同じ事が言える。地域の文化やニーズを無視した乱暴な介入は発展、継続しない。あらゆる活動は住民や参加者のニーズに合致したものでなければならないのだ。ニーズ自体は場所によって異なるが、我々がよいと思うことと、彼らが期待している事のすり合わせをしながら、よりよい形での協力していく事を目指さなければならないという点は、日本の現場でもスーダンの現場でも一緒である。

 次に、コミュニティの力を高める事の重要性。 スーダンでは医師の湾岸諸国への流出が問題となっている。実はこれは医師に限った問題ではなく、あらゆる人材が教育をしても流出してしまっているのだ。では人材流出の原因は何かというと安い賃金なのだ。結局経済的問題にぶつかるのだが、これに対して直接的に物理的、金銭的支援をすれば短期的には経済的改善は期待できるだろう。しかし、外的要素によって成り立つシステムはさらなる依存体質を招いてしまう。今までアフリカの先進国依存を作ってきたのはこうした先進国の介入なのだ。我々が何かテクノロジーを地方に導入したとして、それは果たして彼らの生活を豊かにするのだろうか。先進国や巨大企業による搾取の構造を助長するに過ぎないのではないか。彼らが彼らの中で持続可能な社会をすでに営んでいる中で、我々の関わりはそれを破壊するものであってはならない。地域のコミュニティとしての力を維持しながら、他の社会と対等な関係でともに発展していくにはどうすればよいか。魚ではなく魚の釣り方を教える、とよく言われるが、結局地道ながらも資金や物資での支援ではなく、自己発展の支援をしながら、質の均質化を目指すのではなく、モノがない中でいかに満足して暮らせるか、というパラダイムシフトに取り組まねばならない。これは日本の地方にも同様の構造がある。地産地消という言葉が日本にもあり、日本の地方都市もそれぞれの個性を出しながら発展を目指しているが、こうした課題やノウハウはそれぞれに共有し、協力できるのではないだろうか。

 次に、継続可能な明確なインセンティブを作る事の重要性。 アフリカでは当然の事だが、きちんとインセンティブがはっきりしていないと人は動かない。日本ではやる気や思いやりといった感情で成り立っている事が実は多い。そうしたウェットな行動原理が組織の推進力やチームワークとして必要な時もあるが、インセンティブを明確にしたシステムを作っておかなければ継続性の問題に必ずぶつかる。これはスーダンにかぎらず日本でも同じなのだが、価値観の異なる現場ではシステムがより重要となるのだ。

 途上国の課題はすでに日本が先に取り組んでいたり、よい解決先を持っている場合もあり、日本がノウハウを提供できる場合がある。一方でこのように地域のニーズ、問題点を把握した上で、どこに落とし込むのかを考え、実際の計画をする、という一連の工程を学ぶ上で、途上国の現場は非常によい環境だ。日本の中にいるよりも、それぞれの大事な部分が強調されるため、問題を意識しやすい。一方的にこちらが教えるのではなく、途上国の現場から我々が学ぶ事がたくさんあるのだ。日本の地域でも海外でも起きている問題や構造は根本的に同じ部分があり、日本の地域医療の現場と海外のプライマリヘルスケアの現場は人材・ノウハウを共有することで、それぞれの課題に関する新しい解決策を生む可能性がある。遠隔医療などハード面で互いに協力できる部分もある他、ソフト面でも解決策を相互に共有できるものではないか。スーダンのプライマリ・ケアと日本の地域医療の連携が双方の発展させる事を確信した。

 さて、こうした研修から学んだ事もさることながら、今回最も貴重な経験となった事は、何と言っても川原先生と多くの時間をともに過ごさせていただけた事である。なかなか人生の先輩と寝食をともにできる機会は少ない中で、川原先生の懐を借りて色々と悩みをぶつけさせていただき、大きな背中を見せていただいた。今回の研修を通して、20年後の自分のイメージとそこに向けた今の課題がより見えるようになった。

 最後に、このような貴重な機会をくださった川原先生、岡田院長、そしてご協力をいただいたNGOロシナンテスのスタッフやモハメッドみつ代様、研修をともにした川口先生、古賀先生に深く御礼を申し上げます。ありがとうございました。

亀田ファミリークリニック館山

家庭医診療科 氏川智皓