特定非営利活動法人ロシナンテス

活動報告ブログ

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コラム2019.04.07

スーダンで健康に過ごすために迫られるたくさんの「判断」とは

貧しい人ほど、自分の健康について多くの「判断」をしなければならない環境にある、という説があります*¹。

日本のような先進国では、水道設備が整備されており、自分で浄水をする必要はありません。会社員であれば健康保険料は天引きされ、予防接種は学校や病院等で推奨されます。つまり私たちは、基本的な健康について自らの判断を要求される場面が少ないのです。それは、これまでにさまざまな制度が整備されてきたからです。

一方途上国の貧困層は、川や池の水をそのまま飲むか、浄水を行うための塩素剤等を購入するか等を、お金や労力、時間、そして家族の健康を天秤にかけて選択する必要があります。医療費はすべて自分で貯蓄をしなければならず、日々の生活の中でどの程度未来の医療費を蓄えていくのか、自分たちで決めなくてはなりません。また予防接種も、自分が持っている情報の中で「受診する」ことを決め、遠くの診療所まで行くという行動を起こす必要があります。

給水車から購入した水をためておく設備

このように貧しい人々は、すでに整った環境にいる人々よりも、自身の健康を保つためにずっと多くの「判断」を迫られています。

 

今日4月7日は、「世界保健デー」。こうした環境に置かれている人々の健康を守るため、国際保健について啓発を行うための日です。1950年に世界保健機関(WHO)により制定され、毎年テーマを定めて様々な啓発活動が行われています。

 

UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)とは?

昨年のテーマは「UHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)」。

耳にされたことはあるでしょうか?昨今、途上国での保健事業には欠かせないキーワードとなっています。

UHCとは、「すべての人々が保健医療サービスを受けられる状態」です。より詳しく言えば、すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関する十分なサービスを支払い可能な費用で受けられる、という状況を指します。

 

日本の当たり前と厳しい世界の状況

世界保健機関(WHO)によれば、2000万人の幼児が必要な予防接種を受けられません。また、およそ1億人が、医療費の支払いがかさんだことによって、1日1.9ドル以下という貧困ライン*²以下での生活を余儀なくされています。

病気になったときに、近くに病院があり、きちんと治療が受けられること。これは日本ではほとんどの人にとって当たり前ですが、世界にはこれが当たり前でない地域がたくさんあります。ロシナンテスの活動するスーダンもそのひとつです。

 

剥がれ落ちかけた天井

スーダンの現状は?

スーダンの村落部には病院が十分にありません。また、医師や看護師などの医療人材も、病院の設備も不足しています。

私の訪れた北コルドファン州のオンムダム・ハージ・アハメド地域にある診療所は、1棟で周辺人口の約16,000人の住民をカバーしている、という状況でした。

カバーをしているといっても、医師はたったの1名です。建物は老朽化しており、天井は剥がれ落ちてきています。病院内の設備も、整っているとは言い難い状況です。

しかし、このような状態でも、自力で行ける範囲に診療所がある住民はまだましと言えます。住民は、通常、徒歩かロバに乗って診療所までやってきます。では、徒歩でもロバでもたどりつけない距離にしか診療所がないとすれば、どうでしょうか。診療所から離れた場所に住んでいる場合、そもそも診療所に行くこともできないのです。

まだまだ、スーダンではUHCの推進が必要です。

 

仕組みを整えることの重要性

私自身は幸いにして、予防接種を受けるかどうか、病気になった場合に病院に行くかどうか、といった内容で、深く悩んだことはありません。それは、これまでに多くの人々が築きあげてきたさまざまな制度のおかげなのです。それほど、保健医療において仕組みづくり、というのは重要だと思っています。

ロシナンテスは、巡回診療、診療所の建設や、給水所の建設等を通じて、スーダンに「医」が届くための仕組みを整えています。少しでもスーダンに仕組みを普及できるよう、これからも活動を続けていきます。

 

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*1(アビジット・V・バナジー (著), エステル・デュフロ (著), 山形 浩生 (翻訳), 『貧乏人の経済学―もういちど貧困問題を根っこから考える』, みすず書房, 2012)

*2下回ると、食料・衣服・衛生・住居について最低限の要求基準を満たせないという基準