特定非営利活動法人ロシナンテス

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コラム2020.06.17

暮らしてきた場所を捨てる人々…責任は私たちにも

今日6月17日は、砂漠化および干ばつと闘う国際デーです。1年を通して様々な国際デーが設定されていますが、私たちにとって砂漠と言えばスーダン。せっかくの機会ですので、この問題について、スーダンを通して記事を書いてみたいと思います。

 

スーダンでは過去数世紀にわたって、大きな干ばつと洪水が繰り返されて来ました。それだけで土壌はかなり劣化してしまったのですが、さらに近年の気候変動により上昇する気温、枯渇する水資源、低下する土地の栄養、深刻な干ばつにより、様々な生態系にも影響が及び、食料生産性は現在危機的な状況にあります。2019年の世界飢餓指数では、117か国中最も食料供給が危機的な国として下から11番目に入りました。

写真 / 内藤順司

 

砂漠化が広がるアフリカ
現在世界では169カ国が砂漠化や土壌劣化の影響を受けており、その世界経済への損害は年間4,900億ドル以上¹に上ります。

特に砂漠化の影響を受けている地域は、世界最大の乾燥地域であり、大陸の3分の2が荒地や乾燥した土地であるアフリカ大陸です。砂漠化とともに、繰り返す激しい干ばつが深刻な被害をもたらしています。

スーダンの位置する北アフリカは上昇し続ける気温のせいで、人が住めない地域がどんどん増えているとの研究が報告されており²、スーダンでも2060年までに 1.1 °Cから3.1 °C、気温が上がると予想されています。

そうした土地や気候の変化による被害を一番に受けるのは、貧困層に暮らす住民です。砂漠化が進み土壌の疲弊した地域に生活している人口の大半は貧困層です。砂漠化や環境の変化によって作物や資源が得られず貧困に陥るも、とることのできる手立てが少なく、さらなる自然災害を受けて生活がより苦しくなるという悪化の中で暮らさざるを得ません。

 

暮らしが困窮した結果…
より細かく被害を見てゆくと、まず挙がるのは食料と収入両方を大幅に失うことです。2018年版「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書によれば、世界では9人に1人が食糧不足に瀕しており、そのなかでも飢餓に近い状態にある人々の大半が、農業用地を失った発展途上国に暮らしています。実際スーダンの北コルドファンに住む方も、「家畜に食べさせる草がないため植物を求め何キロも移動する中で、水も確保できず、だんだん弱って亡くなってしまう。」とメディアの取材に答えていました。

暮らしが困窮した結果、移住を強いられることも現実です。難民と聞くと、政治的、又は戦争などの要因を思い浮かべることが多いかもしれませんが、近年は「環境難民」という言葉が注目されています。気候変動への具体的な行動を起こさなければ、2050年までに世界では1憶4300万人近くが環境難民となる、という予測が提示されており³ 、これらの難民のうち、数百万人は慢性的な栄養不良や貧困状態、病気への罹患や死亡に陥るとされています。

政治的な側面から見ると、土地に住めなくなり、移住することで起こる問題の1つは紛争です。水や植物を求めて移住した先が、すでに干ばつや貧困にあえいでいる地域であり、元からいた住民と新しく逃げてきた住民の間で資源をめぐり激しく争うという事も珍しくはありません。実際に、各国における武力紛争には、乾燥地帯における天然資源の利用や自然環境的な要因に端を発しているものも多くあります。30 万人以上が虐殺されたスーダン西部ダルフールでの紛争の要因の一部に、気候変動の影響があったという報告が出されたことが、こうした主張のきっかけとなったとも言われています。

 

誰の責任なのか
スーダンは赤十字から、「気候変動に最も脆弱な国10」のうちの1つとして指定されています。郊外に住む人口の7割が、食料においても収入においても天水農業に頼っているのが大きな理由の一つです。それに加え、砂漠化と極端な降雨パターンにより土壌が人や家畜が利用できない状態になってしまうこと、気候変動により直接的に気温の上昇が起こることの2つで、住民が移住を強いられるケースが増えています。

北コルドファン州のある男性も「特にここ数年で、集落の緑が大幅に減り、家と家の間に見える景色がほとんど砂になってしまった。今すぐ何かできなければ、村から出ていくしかないと言われた。」とニュースのインタビューに答えていました。

こうした移住や避難を強いられた際、責任は誰が追うべきなのでしょうか。国際会議の場でも気候変動は人類共通の問題であると認識されおり、「ワルシャワ国際メカニズム」のような気候変動の悪影響に対処する国際組織も設立されてはいるものの、これまで温室効果ガスを大量に排出してきた先進国と、気候変動影響の大きな影響を受けている途上国の意見が対立し、その対策については具体的な形になっていないのが現状です。

 

危機迫るスーダン、ハフィールも一つの対策に?

砂漠化の一部として起こっているのが強い砂嵐と砂の移動です。何日かの気温上昇、気圧の低下が続くと、砂嵐が一気に押し寄せて、数時間で大量の砂がたまり、村や作物を破壊してしまいます。

スーダンの街を飲み込む砂嵐

もともと降水量の少ないスーダンですが、こうした砂漠化やそれにつながる異常気象の影響として観測されるのが、貧困、食料不足、病気の蔓延、乳幼児の死亡率の上昇、また家庭内で使用できる安全な水の著しい減少です。

砂漠化の問題は1970年代からスーダン政府や国連が対策を練りいくつかの取り組みを行いましたが、資金の不足や研究の不十分さなどにより効果的な解決には至っていません。2016年の時点で国連人道問題調整事務所は、スーダンで約190万人が、耕作地の減少、牧草の不足、水の不足により農業や家畜生産の減少に陥る可能性があると報告しました。

こうした気候変動とその複雑な被害を和らげるために政治的なものから技術的なものまで、専門家により様々な対策が提案、実践されています。砂漠化が進む中で人々が安心して水を得たり、植生を守ったりするための解決策の一つとして、ロシナンテスが改修に取り組んでいる貯水池であるハフィールも挙げられています。降った雨を貯めておくことで、乾季でも生活用水を安定して利用することができ、周囲の植生にも影響を与えます。

1組織が気候変動の問題に立ち向かうことはなかなか難しいですが、そこに暮らす人々の暮らしを守る努力が、よい形で影響するといいなと思います。

 

今回記事を書いたことで、ロシナンテスとして安定したきれいな水の供給に取り組み続けることの意義を大きく感じるとともに、自分の暮らし方や考え方、日々の選択や関心を見直す必要性を改めて感じました。気候変動の議論で避けて通れないのは、経済発展を優先させてきた私たち先進国の責任です。研究の中には、「砂漠化や気候変動の影響を受け、移住による紛争を抱える国の多くが政治的に解決する能力や枠組みを持たない国だ」という一文がありました。暮らしや命を脅かされている現場から遠く離れた私たちの国の消費や政策が積み重なり、結果として、今日も誰かに、暮らしてきた場所を捨てる選択を強いているかもしれないことを実感しました。


1)https://www.globalhungerindex.org/results.html
2) https://www.aljazeera.com/news/2019/11/sudan-10-countries-vulnerable-climate-change-191121123822186.html
3) https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/29461