内戦から2年半——ポートスーダンとハルツームで見えた希望と課題
こんにちは、ロシナンテスの川原です。スーダンで内戦が始まってから、気がつけば2年半が経とうとしています。私は今、暫定的に首都機能が移されたポートスーダンに滞在しています。

ポートスーダンで感じる”日常”の回復
今年5月に無人航空機による爆撃があり、外務省はポートスーダンへの危険度をレベル3(渡航中止勧告)からレベル4(退避勧告)に引き上げました。現在も危険度はレベル4のままではありますが、治安は落ち着いており、市場は内戦前のような活気を取り戻しています。

街中では、若干の停電はあるものの水道やインターネットは十分に機能しており、日常生活に必要な基盤は保たれています。ただ内戦の影響は完全には消えておらず、インターネットの位置情報が数キロずれて表示されるといった不便さもあります。
また、大手航空会社はまだポートスーダンへの就航を再開していません。今回は私自身、エジプトからマイナーなBadr航空(スーダンに本社を置く航空会社)を利用してポートスーダンに入りましたが、機内は満席で、多くの人がスーダンとの行き来を回復させていることを肌で感じました。
近い将来、エチオピア航空やトルコ航空がポートスーダンへの乗り入れを再開する見通しがあり、より多くの人々がアクセスしやすくなることが期待されます。
内戦が続くスーダンにPHCがもたらす希望
今年8月に開催されたTICAD9(第9回アフリカ開発会議)では、九州大学、長崎大学、大阪大学、グラミンコミュニケーションズ、そして私たちロシナンテスが協力して、スーダンをテーマにした特別イベントを行いました。
この場で、駐日スーダン大使館と九州大学との間でアクションプランが締結されました。 このプランは、九州大学がバングラデシュで展開しているPHC(Portable Health Clinic)システムをスーダンに導入しようというものです。
PHCシステムとは、遠隔医療と ICT を組み合わせて、医療資源が十分でない地域・コミュニティに対して「移動型かつ持ち運び可能な医療診療サービス」を届ける取り組みです。
看護師が携帯型の医療機器一式を持って地域の診療場所を回り、健診・検査を行い各種バイタルデータや検査データを取得します。その分析結果を重症度リスクに応じて4色に分類(例:緑=正常、黄=注意、オレンジ/赤=医師対応要)し、緊急性の高いケースや対応が難しいケースは遠隔で医師とやり取りするような仕組みです。医師不足の地域でも最低限の医療を確保できるよう設計されています。
バングラデシュでもスーダンでも、都市部と地方では医療格差が大きく、地方には医師がほとんどいません。スーダンでは多くの医師・医療従事者が国外に退避しており、PHCはまさに現状に適した解決策だと感じています。
こうした取り組みが、厳しい状況にあるスーダンの一助となることを目指し、引き続き尽力していきたいと思います。
ハルツームにも変化が
2023年4月の軍事衝突勃発当初から、スーダンの首都ハルツームは激しい戦場となり、準軍事組織RSFによる支配地域となっていました。しかし今年4月に国軍がRSFから奪還したというニュースが入ってきました。
その後、いくつかの政府機関がハルツームに戻り、国連機関のひとつであるIOM(国際移住機関)もハルツームに事務所を設置したと聞いています。
関係者によると、現在ハルツームには推計50万人が居住しているとの数字もあるとのこと。内戦前の600〜700万人と比べればまだ一部ですが、徐々に各地から人の移動が起きているようです。街の復興や再開の話も出始めており、首都としての機能を取り戻すきざしが見えつつあります。
しかし、水道設備が以前のように稼働しておらず、生活環境は悪化しているようです。その影響でコレラが蔓延し、最近ではデング熱の発生も報告されています。都市が再び動き始めるにあたり、公衆衛生の面で課題が山積しています。
学校再開のうれしいニュース
北コルドファン州オンムサマーマ村で建設した3校の学校は、長らく閉鎖されていました。

州都オベイドの学校に攻撃があり生徒に死傷者が出たことから、安全の確保が難しいと、地域の学校は閉鎖していたのです。しかし3週間前に無事再開したとの知らせが入りました!
皆さまからのご支援で建設した給水設備もフル稼働しているとのことで、嬉しい限りです。内戦中でも子どもたちが学校に通えること、地域に水が行き渡ること——これは地域の人々にとって大きな希望です。
現地の要請に応えて——救急車支援の試み
昨年にお会いしたスーダンの保健大臣から重要な話を伺いました。内戦前には国内に約1,000台あった救急車が、奪われたり壊れたりして現在はわずか200台にまで減少しているとのことです。そのため「中古であってもぜひ欲しい」と強い要請がありました。
本来、スーダンでは中古車両の輸入は禁止されています。しかし今回は特別措置として、中古救急車の輸入が認められることになりました。私たちも、日本で廃棄予定だった中古の救急車4台をスーダンに送る準備を進めています。こちらは進捗があれば、また皆さまにご報告したいと思います。
終わりに——和平への願い
冒頭でお伝えした通り、スーダンは今も外務省の危険情報でレベル4(退避勧告)に指定されており、入国は控えるよう求められています。しかし、私の原点は「目の前で困っている人をなんとかしたい」という想いです。 安全対策を徹底し、各方面から情報を集め、いざという時には自力で国外退避できる体制を確保したうえで、スーダンの関係者と話を進めています。
ポートスーダンの市場が再び賑わい、飛行機が満席になるほど人がスーダンへ戻り、ハルツームにも人が集まり始めています。課題も多いですが、1日も早い内戦の終結とスーダンの力強い復興を信じています。