特定非営利活動法人ロシナンテス

活動報告ブログ

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スーダン2026.02.15

紛争下のスーダンで、妊婦さんたちに医療を届ける事業を開始

デジタルヘルスを活用した母子保健パイロット事業を開始

現在ロシナンテスでは、内戦下のスーダンで、デジタルヘルスの導入を進めています。どの地域も医療の状況が厳しいことから、少しでも医療従事者の皆さんの力になれればと、国連人口基金(UNFPA)との協働で実施する事業です。

世界全体の難民の約13%がスーダンで発生

2023年4月に首都ハルツームで発生した軍事衝突以降、スーダンの治安は悪化の一途を辿り、医療体制にも深刻な影響が出ています。国連人口基金からの情報提供によると、これまでに約1,100万人が国内避難民となっており、これは世界全体の避難民の約13%に相当します。

特に影響を受けているのが、妊婦や新生児です。今後3か月以内に出産を控えた妊婦は約5万人、約120万人の妊産婦が栄養不良の状態にあるとされています。また、性暴力を含むジェンダーに基づく暴力(GBV)も各地で継続的に報告されており、約690万人が予防・対応サービスを必要としているとされています。

国連人口基金との会議をきっかけに

こうした状況の中、2025年10月、国連人口基金からロシナンテスへ、日本政府が拠出した補正予算を活用し、スーダンで母子保健事業を実施できないか、という話がありました。

国連人口基金は1969年に設立された国連機関で、世界150か国以上で性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の推進、女性や若者のエンパワーメントに取り組んでいます。「すべての妊娠が望まれ、すべての出産が安全に」なることを目標に、長年活動を続けている組織です。

首都ハルツーム周辺では依然として内戦の影響が大きく、安全面の懸念が残ることから、まずは比較的治安が安定している紅海州(ポートスーダンを含む地域)でパイロット事業(実証事業)を実施することになりました。

研修のためにスーダンへ渡航した理事長川原(左)

今回の事業で目指すことは

本事業では、デジタルヘルスの活用を通じて、スーダンの妊婦さんたちに、継続的に質の高い保健医療サービスを提供できるようにすることを目標としています。

具体的には、

  • 助産師の母子保健に関する知識・技術およびデジタルヘルスの活用能力の向上
  • 母子保健向けポータブル・ヘルス・クリニック(PHC-MCH)を用いた家庭訪問を通じた、妊婦への質の高い専門的ケアの提供

を目指しています。

事業の実施体制と事業地

本事業は、多くのパートナー機関と協働し実施しています。体制は以下の通りです。

  • ロシナンテス:資金配分、物流サポート、研修運営
  • 九州大学・グラミンコミュニケーション:PHC導入、機器準備、研修、技術支援、分析
  • スーダン家族計画協会(SFPA):現場運営、モニタリング・評価

スーダン家族計画協会は、1965年に産婦人科医を中心とした専門家によって設立された団体で、妊産婦・新生児・乳児の死亡率および罹患率の低減を目的に、長年スーダン国内で母子保健分野の活動を行ってきました。

事業地は、スーダン家族計画協会が紅海州で管理・運営している診療所のある地域です。ポートスーダンを含む紅海州の都市部の診療所は、各地からの避難民の流入によって医療がひっ迫した状態にあります。また内戦前から医療の届きづらい状況にあった村落部への巡回診療を行うことも計画しています。

初回となる研修を実施

研修の様子

2025年10月から準備を進め、2026年1月18〜19日にエコー研修、1月24〜28日にPHC研修を実施しました。

その後、2026年3月末までパイロット事業(実証事業)を行い、その結果をもとに、今後の事業拡大を検討予定です。

研修の様子を現地からレポート

事業地である紅海州を取り巻く状況

紅海州および周辺のリバーナイル州、北部州には、周辺地域での戦闘激化を逃れた国内避難民が合計約140万人以上居住しています。これはスーダン国内避難民全体の約13%にあたります。

各州では、もともと脆弱だった保健医療サービスやGBVの予防・対応サービスに、多くの避難民が流入したことで、医療施設、医療物資、専門人材が不足し、医療や福祉サービスへのアクセスが極度に制限された状況が続いています。

デジタルヘルスという選択肢

スーダンでは、2023年4月に発生したハルツームでの武力衝突以降、母子保健サービスへのアクセス、質、そして提供体制のすべてが大きな影響を受けています。国連人口基金からの情報提供によると、医療施設の機能低下や人の流入により、紅海州においても多くの妊婦が適切な母子保健サービスを受けられない状況が続いています。

妊婦に対して継続的かつ質の高い医療を提供するためには、従来の母子保健サービスを立て直すとともに、新たなサービス提供の方法を模索することが喫緊の課題です。こうした状況において、デジタルヘルスは、紛争や脆弱性の影響を受ける地域においても、妊婦に医療を届けるための重要な手段となり得ます。

ポータブル・ヘルス・クリニック(PHC)とは?

今回の事業で導入するのが、ポータブル・ヘルス・クリニック(Portable Health Clinic:PHC)です。

ポータブル・ヘルス・クリニックは、様々な検査機器を収めたアタッシェケース、データ管理アプリ、モバイルネットワークに接続された通信システムをセットにした遠隔医療システムで、主に家庭訪問での健診を想定して設計されています。

血圧などの検査データがシステムに入力されると、自動的に危険値かどうかが判定されます。異常が認められた場合には医療従事者に通知される仕組みとなっているため、看護師など、医師以外が健診を行った際に異常が認められた場合でも、迅速な対応が可能です。

ポータブル・ヘルス・クリニックは、九州大学およびバングラデシュのグラミン銀行傘下の組織であるグラミン・コミュニケーションとの協働により開発されました。

TICAD8では、九州大学がスーダンでPHCを進めていくことを宣言

当初は非感染性疾患向けの健康診断を目的としていましたが、その後、妊婦健診に必要な超音波検査(エコー)を実施するための機器を組み込んだ、母子保健向けモジュール(PHC-MCH)へと改良されました。

バングラデシュからスーダンへ広がる取り組み

このモジュールは、2019年以降、バングラデシュの農村部で1,500件以上の健診に使用されてきました。現在、ロシナンテスの事業地であるザンビアでも、試験導入に向けた準備を進めています。本事業では、この母子保健向けモジュールを用いた支援が、紛争下のスーダンにおいても有効に機能するかを検証するため、実証的な取り組みとして導入します。

医療施設に来ることが難しい妊婦さんにも、必要な医療を届ける。この取り組みが、紛争下における母子保健支援の新たなモデルとなるよう、現地のパートナーとともに取り組んでいきます。