特定非営利活動法人ロシナンテス

活動報告ブログ

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スタッフ挨拶2020.11.09

入職のご挨拶【田中陽介】

初めまして。2020年11月に入職した田中陽介と申します。ザンビアの駐在員として赴任することになりました。私たちの事業が皆さまから頂いた大切な寄付で成り立っていることに留意しつつ、住民やチームと協力してより良い事業にしていきたいと考えています。

私は、自身のキャリアのほとんどを民間の事業会社で過ごしましたが、途中2年半、フィリピンでのNGOの仕事に携わった経験があります。わずかな時間でしたが、大切な財産として今のロシナンテスの仕事にも繋がります。それはごみ山で暮らす地域の母親たちと一緒に医療や生計向上に取り組むプログラムでした。

活動の中で出会った女性がいました。マニラの中でも差別的な目が注がれる地域で暮らし、スカベンジャーとして生計を立てていました。彼女が、生計向上の一環で始めたものが編み物でした。彼女に先生をお願いし、台風災害で住む場所を失くした人が集まる地域の生計向上プログラムに参加してもらいました。週に3回、2時間の道のりを一緒に通いました。道中の彼女の言葉が耳に残っています。「自分のスキルが他の人の役に立つことが本当に嬉しいの」。彼女が見出した、数少ないやりがいだったのかもしれません。

それから数日後、彼女は突然亡くなりました。心臓発作でした。酒飲みの夫との問題を抱え、10人の子どもを育てながら家計を担った彼女には想像しがたい心労があったのかもしれません。葬式で普段履かない白い靴下を履いて横たわる彼女と対面して、初めて彼女がいくなったのだと理解しました。

私は理解していませんでした。いつも見せる明るい表情の裏で、足りない収入を補うためにごみ山に登っていたこと、家庭で10人の子どもや夫の世話をしていたこと、更には、環境を変える努力をしても容易に変えられないこと、差別、雇用の機会など様々な要因が彼女を押さえていたこと、死が身近にあったこと、のしかかるこれらの大きさがどれほどのものかを分かっていませんでした。

私と彼女ひいては地域の住民は同じ空間にいながら、全く違う空間を生きていました。毎日の食事が保証され、自由なキャリア選択ができ、2,3年周期でやってきては関心を満たし去っていく私たちと、その境遇と長い間付き合い、家族と一緒にいれることだけが幸せと言う彼らの間には埋められない大きな溝がありました。

精神的なものだけではありません。時間の全てを活動に費やせる私たちと生活のほんの一部分だけしか使えない住民、資金を持つ者と持たざる者の違いなど、「住民参加」を掲げても限界を内に包んで活動は前に進みます。そんな私たちが行う活動がどこまで彼らに響くのかという不安と、同時に私たちだからこそこの現実に光を当てることができるという思いの間で自身の存在意義を問い続けた2年半でした。

その後、私はもう一度民間に戻ります。しかし、また戻ってきたのは、自分の過去を振り返り、やはり私たちは、当時あの活動をやらなければならなかったのだと思えるようになったからです。

月日は流れ、ゴミ山は閉鎖され、住民もバラバラになりました。しかし、そこで出会い一緒に活動した地域の若者の一人は、今やNGO職員となり、ソーシャルワーカーとして同じような境遇の人々をサポートしています。点が線となり、同じように活動を作り、人々を支え続けています。

今回ご縁があり、ロシナンテスにお世話になります。ロシナンテスの活動においても以前感じた葛藤は変わらないでしょうが、だからこそきちんと住民と向き合い、丁寧に声を拾っていきたいと考えています。私たちの活動よって住民の生活の一部でも変わり、それによって自らが小さな一歩を踏み出せるきっかけになるのであれば、これほど幸せなことはありません。よろしくお願いします。