特定非営利活動法人ロシナンテス

活動報告ブログ

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日本での活動2022.07.12

ちょっと変わった報告書「健康農業 亘理いちご畑 同窓会 2022」に寄せて

茜が「トキちゃん、来たよ!茜だよ!目を覚まして!」と肩を揺さぶり声をかけ、その傍らでいつもは声の小さい早笑(さえみ)が「トキ子さん、起きてください!みんなで来ましたよ!」と耳元で大きな声をかけたが彼女は目を覚まさなかった。二人の瞳は濡れていた。業を煮やしたお孫さんが「おばあちゃん、起きて!目を覚まして!ロシナンテスさんが来ているよ!」と、体を揺さぶったり軽く頬をはたいたりして、何とか目を覚まそうとするのだが芳しい反応はなかった。

亘理のじいちゃんばあちゃんに会いたい

4月に、元ロシナンテス東北事業部で主に亘理町での「健康農業 亘理いちご畑」に従事していただいた平林由紀夫さんより、ニュージーランドから一時帰国をするという連絡があった。それではロシナンテス東北事業部のメンバーで集まって旧交を温めましょうと伝えると、亘理のじいちゃんばあちゃんに会いたいとの返信があり、そのことを旧メンバー(田地野茜・綾田早笑・岡部哲)に伝えると、「こんな時期だけど(コロナ禍)、みんなで集まりたい」という意見にまとまった。

話が長くなるが、前月の3月半ばに私は10数名のじいちゃんばあちゃんに会っていた。それというのも、2016年3月に東北での活動を終えた私たちのうち、綾田早笑は仙台市の小学校の教員として宮城に残り生活をしていた。その早笑がこの4月から故郷の香川県で教鞭をとることになったので、「じいちゃんばあちゃんに挨拶をしたい、ついては大嶋さん同行願えないか」との打診があった。

折しもそのころ、私は岩手・宮城・福島と三県を股にかける出張に出ており、土日に主だった健康農業に参加していたじいちゃんばあちゃんを訪ねることができた。それぞれの家を訪ねるとことのほか喜んでくれ、驚きの表情がすぐに崩れてびっくりするほどの笑顔となり「あがっていけ、お茶を飲んでいけ」と執拗に迫られた。「ぜひそうしたいのだが、まだコロナが完全になくなったわけではないので玄関の外で少しだけお話ししましょう」と促した。そのときはちょっと寂しげな表情を浮かべた。

早くしなければみんなで集まることができなくなる

そんなこともあり、私も旧メンバーと話している途中から「よし!みんなで集まろう!」と心を決めていた。また、3月の訪問の際に判明したのだが、すでに亡くなっている方や施設に入居している方もいた。「健康農業 亘理いちご畑」の解散時(2016年3月)、参加者の平均年齢が79歳だったことを思うと、現在の平均年齢は85歳となり、早くしなければもうみんなで集まることができなくなる!平林さんの帰国は天啓だ!とも思えた。

イベント名は「健康農業 亘理いちご畑 同窓会2022」とし、ひょっとしたらこのような同窓会は最初で最後になるかもしれないと考え、ロシナンテスの総大将である川原尚行理事長をお誘いし、予算を計上していただくようにお願いした。

当時のメンバーの力を集結

それからは、イベントは絶対に外さない!必ず成功させるロシナンテス東北事業部の面目躍如とばかりに週に一回程度WEB会議を開催し、内容を煮詰めていった。ぼんやりとしたイベント内容が、話し合いを重ねるたびに実像として姿を現してくる感じがとても懐かしく、皆当時のような感覚を楽しんでいるようであった。旧ロシナンテス東北事業部の良いところは「全員意見を言う」というところだ。今回も以前のように全員が発言をし、それを全員で議論した。議論が収れんしたところで長である私が決断(決済)するというのがスタイルで、昔のように活発に意見が交わされたので決断に難儀することが多々あったが、それが私たちの矜持でもあると感じた。

亘理町での準備は参加者のうち最若手の三戸部長三さん(75歳)に請け負っていただき、集会所の手配から、旧参加者の住所調査、プロジェクターの手配、お弁当の手配、その他細かいことまでもろもろとやっていただいた。参加者の平均年齢こそ高いが、年齢層に大きな幅があるのでこれが強みとなった。この場を借りて感謝申し上げます。

また、このようなイベントでは内容はもとより、イベントをお知らせするフライヤー(チラシ)が非常に重要で、これも活動時にお世話になったデザイナーの渡辺ハルミさんにボランティアとしてご協力いただき、とてもモチベーションの上がるものを作成していただいた。この場を借りて感謝申し上げます。

送迎と参加できない方をどうするか問題

準備を進めるうちに二つの大きな問題にぶつかった。①集会所(イベント会場)までの送迎をどうするか?②事情があり参加できない方をどう扱うか?の二点だ。

結論から述べると、

  • ①イベント会場までの送迎は、足りない部分はレンタカーを借りてでも以前のように私たちでする
  • ②具合が悪い・足が痛い等の理由で不参加の方はイベント前に時間を作って会いに行く

と決まった。本当は言いたくないのだが、これが前述した決断に難儀した点で、①・②とも私は反対であった。送迎車は自動車保険に加入しているので、万が一事故があった場合でも補償はできるが責任をとれないのではないか?時間を切り詰めて不参加者に会いに行ったりすると、時間的な焦りから不慮の事故等が発生するのではないか?というのが私の主張であったが、茜と早笑は「私たちが迎えに行くとじいちゃんばあちゃんが喜ぶ。私たちが会いに行くとじいちゃんばあちゃんが喜ぶ」と言った。私は「責任、責任」と叫び、彼女らは「じいちゃんばあちゃんが喜ぶ」と言うのだ。

たった6年で……忘れかけていた当時の志

頭をガーンッと殴られたような気がして、当時を思い出した。

私たちは健康農業の参加者のじいちゃんばあちゃんと、「活動中に事故や怪我を負った際に賠償責任を問わない」というような念書みたいなものを取り交わさなかった。そして私はじいちゃんばあちゃんに「みなさんが参加しているこの健康農業がいかに楽しいかを家に帰ってご家族にたくさんお話ししてください!皆さんの楽しさがご家族に伝わると、仮に事故等があってもご家族は私たちに責任をとれなんて言いません!順番でいくと皆さんは私たちスタッフよりも先に逝ってしまいます。津波に被災した後、残された短い時間をいかに楽しく過ごしていただくかという一点に私たちは努力をしています。その結果、みなさんが楽しいと感じてくれているのなら、それを皆さんの心の中にしまわずに、ぜひご家族にどんどんお話ししてください!」と繰り返し伝え、そのとき皆さんがニコニコしながら深く頷いていたことを思い出した。

それがどうだろう、宮城を離れたった6年しか経過していないのにもかかわらず、人の喜びより責任を避けて通ることを優先しているのだ。若い二人に生きる道を教えられた気がした。

無念の不参加の知らせ

5月の終わり頃、平林さんから悪い知らせが届いた。今年に入ってコロナに感染したそうで、完治はしているのだが出国前のPCR検査で陽性反応が出て出国できないとのことであった。なんでも半年以上経過しないとPCR検査で陰性にはならないとのことであった。平林さんはとてもがっかりしていたが、そのことよりも(ある意味)平林さんのために同窓会の準備を進めている私たち旧スタッフに申し訳ないという思いが非常に強いようであった。

準備も半ばを過ぎ、三戸部さんから多くのじいちゃんばあちゃんがとても楽しみにしているとの報告もあり、私たちスタッフ側もスケジュールをやりくりしていたので中止や延期にはできなかった。誰かが「メッセンジャーやラインなどの動画付き通話をプロジェクターに大きく映し、参加者と会話をしたらどうか」とアイディアを出し、それを同窓会の目玉のプログラムとした。

買い出しや役割分担、そしてプログラムが完成し当日を待つばかりとなった。

3年後に大宴会の約束を

6月11日土曜日、午後3時。川原理事長と旧東北事業部スタッフは仙台市のとある施設にいた。廣瀬健之さんを見舞うためだ。廣瀬さんは、亘理町出身で、ロシナンテス東北事業部の寺子屋事業を担っていただいていた、被災者でもある工藤博康さんの同級生(実は川原理事長も同級生)であり、学校は違えど工藤さんと小学校以来の旧知の仲で、東日本大震災後ロシナンテスの東北での活動を陰になり日向になりバックアップしていただいた方だ。2011年7月に開催した「閖上・スーダン大運動会」の前夜祭で私たちが居を構えていた圓満寺の目の前の田んぼから100発の打ち上げ花火が上がった光景は廣瀬さんの功労であった。

そんな廣瀬さんが昨年6月に交通事故に遭い、奇跡的に一命をとりとめ近頃やっとリハビリができるようになったと聞いたので、皆でお見舞いに行った。車椅子に乗った廣瀬さんは「情けない。生きる希望がない」と嘆いたが、奥さんは「事故当時のことを思うとここまで回復したのは奇跡的で、まだまだ頑張ってほしい」と思っているようだった。

私たちは「僕らは廣瀬さんではないので廣瀬さんの本当の苦しみはわからない。でも数ヶ月でここまで回復したんだから続けていけばもっと良くなる。あと3年頑張ってください。そうすると廣瀬さんは60歳でしょう?その時にみんなで大宴会をして、酒を酌み交わしましょう!」と再会の約束を交わした。

笑って笑って笑い続けた閖上同窓会

その後名取市閖上にある「名取ゆりあげ温泉 輪りんの宿」に荷を解いた。すぐにひとっ風呂浴びる者(川原尚行(笑))、談笑する者、荷物の整理をする者などそれぞれに過ごしたが、17:15には1階のロビーに集合した。閖上中央集会所へ行くためだ。

ロシナンテスの東北での活動期間は5年間だが、最初の2年間は名取市に居を構え、主に閖上地区の方々と活動した。避難所の体育館で始まった「訪問診療」「復興会議」を皮切りに「寺子屋」「閖上・スーダン大運動会」「閖上復興いも煮会」「閖上復興だより」の発行など語りつくせぬほどの活動を、閖上の方々と共に一緒にやってきた。最初のころこそ私たちが多少リードをして活動したが、時が経つにつれ協働という形になり、最終的には閖上の方々のみで「閖上復興だより」を発行したり、「閖上復興いも煮会」を開催するようになった。そこに至って、私たちは支援者と被災者の垣根を超え仲間となった。

その友達たちが「ロッシー&閖上 同窓会 2011→2022」を開いてくれるのだ。復興後も閖上に住む南部比呂志さんが中心となって、素晴らしい同窓会を開催していただいた。川原理事長の挨拶から始まり、談笑したり、私がMCとなって参加者全員の1分間スピーチがあったりと、笑って笑って笑い続けた3時間であった。会の途中からはどんどん自由な席替えがあり、昔を懐かしんだり近況報告をしたりと、あっという間に時間が過ぎていった。南部さんをはじめ閖上のみなさんにはこの場を借りて感謝申し上げます。

翌朝は、ご当地名所の閖上朝市に顔を出し、朝食をとりつつ各所に挨拶を済ませ、朝市にまで来ていただいた閖上の仲間たちと別れを惜しみ、いよいよ今回のメインイベントのある亘理町へ移動することとなった。

参加が叶わなかったおばあちゃんたちを訪問

途中の仙台空港で大きなレンタカーを借り、亘理町に入るとまずは同窓会に参加することができないおばあちゃん3名を訪ねた。一人目は冒頭に紹介したトキ子さんだ。トキ子さんは先週から急に具合が悪くなり食欲がなくなりほとんど寝ているような状態だと聞いていた。私たちが駆け付ければほんのひと時でも目を覚ましてくれるかもという淡い期待はかなわぬ望みとなった。茜が「トキ子さんを囲んで記念撮影をしましょう。目が覚めた時に写真を見てたら喜んでくれるでしょ?」と提案したので記念撮影をした。二人の若い女性のお孫さんは泣いていた。

二人目はチエコさん、三人目はマツコさんを訪ねた。それぞれ、足の具合が思わしくないのとご主人の具合が思わしくないということで、泣く泣く同窓会への参加を断念したそうだ。このお二人はとても仲が良く、ウィットに富んでいて時にはブラックユーモアさえ口にするほどの楽しい人物で、私たちスタッフの間の影の人気者でもあった。私たちが尋ねてくることを前もって聞いていたようで心待ちにしてくれていた。チエコさんは川原さんと岡部君に大量の美味しいシイタケのお土産を準備していた。私と茜と早笑にはシイタケのお土産はなかった。本人曰く「前にあげたから」ということで、そんなことまでキッチリ覚えているところが笑いを誘った。

待ちに待った大同窓会、開催!

11時に亘理町上浜街道集会所に到着するとすぐに準備に取り掛かった。
以下、イベントの内容を記します。

11:00 お迎え・会場設営
12:00 開会のあいさつ:MC大嶋一馬
12:05 ロシナンテス理事長川原尚行氏 あいさつ・近況報告
12:20 乾杯の挨拶:岡部哲 そのまま昼食・談笑
12:50 ロシナンテスとお話ししよう!のコーナー(参加スタッフ全員が地元のお菓子・お土産を一つずつ参加者に配りながら席を回りお話をするコーナー)

※参加スタッフ:川原尚行理事長・大嶋一馬元東北事業部長とその妻と娘・沼井茜(旧姓:田地野)とその夫と二歳の息子と三ヵ月の娘・綾田早笑・岡部哲(当日はカメラ担当)・土居章敏(足しげくボランティアに来た方)・望月美希(健康農業を研究した方・現静岡大学助教授)とその夫と二歳の娘と9ヶ月の息子
13:30 平林さんとお話ししよう!のコーナー
13:50 終わりの言葉:ロシナンテス理事長川原尚行氏・三戸部長三氏
14:00 送り・片付け

この同窓会の楽しさは言葉に表すことができない。うれしかったのは、みなさんがこの日を心から楽しみにしていてくれたことだ。そして、「健康農業 亘理いちご畑」は参加者40数名の活動であったが、29名ものじいちゃんばあちゃんが参加してくれたことのみならず、一人たりとも欠席しなかったことに感激した。

そして、半分以上の方がご家族に送迎をしていただいていた。顔を合わせた何人かのご家族からとても感謝され「ずっと前から今日を楽しみにしていたんですよ!」という言葉をいただいた。「健康農業」の活動がいかに楽しいのか、みなさんご家族に話してくれていたんだなぁと感慨深かった。

宮城を後にして6年がたち……

振り返ると、東日本大震災から11年が経過し、ロシナンテス東北事業部が宮城を後にして6年が経過したが、復興支援がいつの間にか協働する活動となり、仲間となって友達となった。川原のアフリカでの活動もこのような経緯をたどっていることだろう。

ロシナンテスの活動は、相手の立場になり寄り添い支えながら協働し、現地の人だけでできるようになるように促していくことだと思う。アフリカであろうが東北であろうがその理念は変わりない。それができるのも多くのロシナンテス支援者が寄付や様々な形で背中を押してくれたおかげだと思う。そして、現地で活動するロシナンテたちが皆さんになり代わり濃密な時間を過ごす。この濃さとでもいうべき時間を皆さまにも共有していただきたく、乱筆乱文ではありますがちょっと変わった報告書をしたためさせていただきました。

今回「健康農業 亘理いちご畑 大同窓会2022」を開催して、みなさんのご支援を心からありがたいと改めて感じました。

この場を借りて衷心より感謝申し上げます。

2022.7.7
認定NPO法人ロシナンテス
元東北事業部長
大嶋一馬