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川原ブログ2020.09.10

治安改善への大きな一歩となるか?スーダン政府と反政府勢力が和平協定へ署名 #スーダン情勢

2003年、スーダン西部のダルフールにて、政府・アラブ系民兵と反政府勢力の本格的な武力衝突が勃発します。約30万人が殺害され、約250万人が難民・避難民になる事態へと発展する、世界最大の人道危機「ダルフール紛争」の始まりでした。

国際社会が様々な形で平和構築支援を行ってきたものの、争いは収まらず現在に至っています。しかし8月31日、スーダンの暫定政権の首相ハムドク氏が、スーダン西部ダルフール地方などを拠点とする複数の反政府勢力と和平合意文書に署名したという大きなニュースが入ってきました。

 

ダルフール紛争の勃発

2003年、日本政府は内戦中のスーダンへの直接的な援助を停止していましたが、国連経由で人道的な支援を行なっており、ユニセフを通じてポリオ撲滅に向けてワクチンの供給などを行なっていました。当時、私は医務官として現地に赴任しており、ユニセフの現地代表とともにポリオキャンペーンが実施されるダルフールに行く予定でした。出発直前に、ユニセフから大使館に現地の治安が悪化しているので出張はキャンセルになるとの連絡が入りダルフールに行くことが出来ませんでした。

これが、ダフルール紛争勃発の時でした。

 

バシール大統領率いる当時のスーダン政府は、「太古の昔から、この地方は農民と遊牧民の水争いでたびたび衝突しており、争いは小規模なものであり自分たちで解決できる」と主張していました。しかし、国連は非イスラム系の農民とイスラム系の遊牧民の争いであり、スーダン政府が民兵を使って非イスラム系民衆を襲撃して多数の犠牲者が出ていると発表し、スーダン政府を厳しく非難してきました。その後もスーダン政府は、紛争は認めるものの犠牲者、難民ともに小規模であると国連発表を否定してきました。

現在の国連発表では犠牲者は30万人以上、避難民は250万人以上とされています。

 

バシール政権の終焉が何をもたらすか

ダルフール紛争問題が注目され始めたのは、国際的な著名人がダルフール問題の解決に向けて積極的に活動をしてきたからです。2006年、米国の俳優であるジョージ・クルーニーが自らダルフールに足を運んだことは大きなニュースとして取り上げられました。スティーブン・スピルバーグは中国がスーダン政府の後ろ盾になっているとして中国政府を批判し、北京オピンピックのボイコットを叫ぶに至っていました。

2009年、国際刑事裁判所(ICC)は、バシール大統領をダルフール紛争における戦争犯罪として逮捕状を発出しています。ICCが現職の大統領に逮捕状を出したのは史上初のことでした。

 

バシールは逮捕もされずに長年スーダン大統領の地位にあり続けました。(スーダンがICC 非締約国であるため、慣習国際法上の逮捕及び刑事管轄権から免除され、逮捕に至らなかったため。)しかし、2018年末から状況が一転。経済状況の悪化が原因でついには国民のデモが大規模に起こり、デモの焦点が経済から政治へと変わっていった結果、バシールは最終的に解任されることとなりました。現在は次の選挙(予定では2022年)が行われるまでの期間の暫定政権が成立しています。新しい政権が前政権の行なってきたことを徐々に明らかにしていく中で、前政府がダルフール紛争について「国際社会が事実を捻じ曲げてきた」と主張してきたことへの信憑性も問われています。

 

暫定政権と反政府勢力との和平協定

そのような中、暫定政権は前政権の負の遺産を清算しようとしています。先月末、スーダン革命戦線(Sudan Revolutionary Front:SRF)に参加するダルフール、南スーダンとの国境にある青ナイル州、そして南コルドファン州の複数の反政府勢力とスーダンの暫定政府が和平協定に合意、署名しました。

 

今回の和平合意が素晴らしいと感じさせられたのは、仲介したのが南スーダンということです。ご存知のように南スーダンは、内戦の末に2011年にスーダンから分離独立した国です。独立後南スーダンの政府内、部族間での対立で内戦に近い状態にまで陥ったのですが、今では何とか治まり、今回はスーダンの紛争問題の解決を仲介するということで驚きをもってみていました。

2つのグループを除く複数の反政府勢力と和平合意を締結したのが今年の8月31日です。そして9月4日に残る2つのうちの1つの反政府勢力との和平合意が結ばれたと報道がありました。今度の仲介はエチオピアです。周辺国も地域の安定を望みスーダンに協力しているのでしょう。

 

新政権の躍進に期待

しかし一部反政府勢力との合意がなされていないのが心配です。2011年にカタールが仲介してダルフールの反政府勢力と和平合意を締結した際も、全ての反政府勢力との和平合意を締結することができず、紛争終結には至りませんでした。

今回もすべての反政府勢力と和平合意できたわけではないことから、これまでと変わらないと指摘する人もいますが、今までと決定的に違うことがあります。それは、前政権ではなく新しい暫定政権が誕生していることです。

暫定政権は、新しいスーダンを作ろうという気概にあふれているように見えます。政治の混乱があり、また経済的に非常に苦しい状況の中にあるスーダンですが、このように和平合意を次々と締結していく暫定政権と今後民主的な選挙を行おうとするスーダンの人たちに大いに期待したいです。