特定非営利活動法人ロシナンテス

活動報告ブログ

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現地の文化生活2019.11.28

紙?水?石?お尻を拭くための選択肢とは

こんにちは!(アッサラームアレイコン!)インターンの山口です。

今月11月は、10日に「トイレの日」、19日に「世界トイレの日」と、トイレについて考えられる機会の多い月でした。ご存知でしたか?

※トイレの日:「11(いい)10(ト)イレ」ということで、日本トイレ協会が1986年に制定しました。

※世界トイレの日:トイレや衛生の問題について考え、行動することで、世界各地の公衆衛生の改善を進めようと、2013年の国連総会にて制定されました。

今回はそんなトイレデーにちなんで、ロシナンテスがスーダンに建設をしたトイレや、人口の半数以上がイスラム教徒であるスーダンならではのトイレの形や作法をご紹介したいと思います。

まずは、ロシナンテスが、巡回診療を行っていたワッド・シュウェイン村の学校横に建設したトイレをご覧ください。

写真をご覧になって、何か気が付くことはありますか?

 

鍵がかかっています。

日本の学校のトイレではあまり見かけませんが、これは、いたずらされたり動物が侵入して汚したりしないためだそうで、毎日授業の終わりや長期休みに教員が施錠して管理しているそうです。この鍵1つにみられるように、場所、文化や宗教によりトイレのとらえ方、使い方はずいぶんと違ってきます。

そもそも、紛争や災害でインフラが壊されてしまったり、きちんとした水環境を整える技術や資源、資金がなかったりする場所では、トイレを設置することも難しい環境にあります。世界では、人口の3分の1に近い24億人もの人々がトイレを安心して使える環境になく、スーダンの地方でも、学校や家にトイレがなく、道端や草むらなど、屋外で排泄する習慣の子どもも多いそうです。こうした場所では、水が汚染されてしまったり、感染症が広がりやすくなったりします。

ワッド・シュウェイン村の小学校にももともとトイレはなく、不衛生な環境が原因と思われる感染症が多い状態で、村人や巡回診療チームからも「衛生環境を改善したい」という声があり、建設に至りました。

トイレの重要さについて少しお話ししたところで、今度はトイレのある場所ではどんな使い方がされているかを見てみたいと思います。

 

こちらはスーダンにもみられるイスラム式の使い方に沿ったトイレです。(※写真はスーダンではありませんが…)日本で普段使われるトイレと違う点は何でしょうか? 特に、横にある水桶は何に使われるかわかりますか?

 

正解は「拭き取るためのトイレットペーパーが置かれていない」「用を足したあとは紙で拭くのではなく、水をつかい自分の体、(また場合によっては床全体も)をきちんと清める」です。 用を足した後に紙を利用する人は現在世界の中でも3分の1と言われており、実は少数派です。水や紙の他にも、気候や文化、様々な理由から小石や葉っぱ、毛や土、海藻、木片などを利用している地域もあります。

アフリカ、中東、東南アジアの国々にもみられるこれらの特徴は、イスラム教の教えにも深くかかわっています。イスラム教では、身を清めて保つことがとても重視され、生活の中でその教えを徹底して守ろう、と様々な習慣化が工夫とともになされています。イスラム教の教えであるコーランの中には「誠にアッラーは、悔悟して不断に(かれに)帰る者を愛でられ、また純潔の者を愛される(雌牛章222節)」という記述、またムハンマドの言行録の中には、「清潔は信仰の半分」という言葉もあり、清潔さは崇拝行為(イバーダ)が正しくなる条件ととらえられ、清潔さを保つことが日常の中で非常に大切にされているそうです。

 

何を「清潔」ととらえるかは地域や文化によって異なりますが、イスラム教の場合、1日5回の礼拝前には必ず手足口耳などを水で浄める「ウドゥー」、性交後は全身を洗うこと、またトイレの作法も細かく定めて守ろうとすることで「清潔さ」を実践しようとしているようです。信仰の度合い、各家庭の教えにより作法も変わってきますが、 特に、トイレの作法には

「トイレには左足から入る」「パンツを下ろすのは右手、水洗いに使うのは左手」「トイレの中で話してはいけない」「コーランを持って入ってはいけない」「水がない場合は小石を使ってもいい」「ただし小石を使う場合は奇数個に限る」「水が最善だがティッシュなど紙も使用可」

などが場所によっては決められている他、トイレを設置する際にも、おしりと頭が聖地メッカを向かないように建築、設計されるそうです。

ちなみに、ご紹介したように、用を足した後排泄器官を水で清めることも「イスティンジャー」と呼ばれる大切な工程の1つです。伝統的には手桶に水を入れ、左手で水をすくっておしりを洗います。現在も多くの場所で水を入れた桶、またスーダンでは「イブリック」というジョウロを使い洗い流すそうです。一部では発展し、トイレの横にハンドシャワーが備え付けてある場所もあります。紙を使い慣れている身からすると違和感があるかもしれませんが、拭いたままにしておくよりもきちんと流し清めるほうがよほど綺麗だ、と考えるようです。

水が貴重な地域でもこのような習慣が根付いているところに信仰心の深さが伺えます。

私も旅先で清められた後と見られる水浸しのお手洗いを見たことがありましたが、日差しが強く、空気が乾いた土地であれば、イスティンジャーを行った後も床や体が乾きやすく楽なのだそうです。

余談になってしまいますが、イスティンジャーの習慣をもつイスラム圏出身の方が初めて日本に来られる際は、ウォシュレットつき洋式トイレ以外を使用できないため、トイレを我慢したり場所を探したり苦労されたり、水を持ち込む場合もあるそうです。

今回記事を書くにあたって調べてみて、改めて人にとってトイレの意味合いが全く違うことを実感するとともに、作法1つ1つから心情や環境の違いが見える面白さを感じました。