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現地の文化生活2023.04.25

スーダンで軍事衝突、いったい何が?

ロシナンテスの日本人職員はジブチに到着

スーダンでの武力衝突が始まって10日がたちました。首都ハルツーム市街地をはじめ各地に広がった戦闘により、市民の犠牲者は400人を越え、負傷者も3,500人を越えると報道されています。

戦闘が起きている地域では、外出が難しいことに加え、断続的な停電や断水により、食料や飲料水が底をつきはじめたとの声も聞かれます。国連機関やNGO事務所も、国際スタッフの国外退避を開始しています。ロシナンテスのスタッフ3名は、無事にジブチへ退避したとの連絡が入りましたが、現地スタッフは引き続きスーダンにとどまっています。

またスーダンに滞在する日本人でも、ハルツームから離れたところにいる、戦闘等で移動が難しいなどの理由で、まだ退避できていない人々もいます。(※4/25日本時間午前の時点で、ハルツーム市内においては、退避を希望する日本人すべての出国が完了したとの報道がなされました。)

スーダンの近隣諸国や国連、EU、アフリカ連合など多くの国から戦闘をやめるよう呼びかけられていますが、4月25日時点で事態は収束していません。

スーダンで軍事衝突、いったい何が?

アフリカ・スーダンの首都ハルツームで、2023年4月15日の現地時間朝より、軍事衝突が始まりました。

これまでは、民主化を求める市民が抗議活動を行い、軍がそれを催涙弾などを用いて制圧する、という衝突が主でした。しかし今回は、これまで”軍”としてある程度まとまっていたスーダン国軍とRSF(Rapid Support Forces:ダルフールの民兵組織を起源とする準軍事組織)との対立であることから、大規模な戦闘に発展しています。

スーダンでいま、何が起こっているのか、これまでの政治的背景も含めて解説していきます。

スーダンってどんな国?

スーダン共和国はアフリカ北東部に位置し、アフリカで3番目に広い国です。7つの国と国境を接し、世界最長のナイル川が流れています。国土は日本の5倍ほどありますが、人口は、日本の3分の1程度の約4,500万人です。

かつてはエジプトとイギリスの統治下にあった影響から、イスラム教を信仰するアラブ住民と、キリスト教や伝統宗教のアフリカ系住民が混在しています。2011年7月に南スーダンが分離・独立してからはイスラム教徒が大多数となっています。

スーダンには世界文化遺産の「メロウェの考古遺跡群」があり、エジプトよりも多くのピラミッドがあることでも有名です。また、原油や鉄、金などの資源産出国であるほか、世界第1位のゴマの生産地としても知られています。

市民デモによる独裁政権崩壊(2019年4月)

スーダンは、複数回のクーデターや民衆蜂起による政権崩壊の歴史を持つ国です。

1958  アブード軍事政権樹立
1964  暴動によりアブード軍事政権崩壊
1969  ヌメイリ政権樹立
1985  クーデターによりヌメイリ政権崩壊
1989  バシール軍事政権樹立
2019  民衆蜂起によるバシール政権崩壊

1993年にスーダン国軍の将軍オマル・バシール氏が大統領の座を獲得して以降も、軍部による独裁政治が行われてきました。

しかし、約30年続いたバシール政権は、2019年に崩壊します。

2018年12月19日、パンの価格が3倍に値上げされ、それに対する抗議デモが行われたことがきっかけです。このパンの値上げの直接的な原因は、財政状況悪化から、政府が今まで行ってきた小麦の補助金を撤廃すると発表したためでした。

日に日に高くなる食料の値段から勢いづいた抗議活動の矛先は、一向に改善されない経済状況と、その背景にある独裁体制へ向けられることとなりました。このデモ行進には、女性や子供も含む老若男女が参加し、デモ隊へのサポートのために、企業や一般市民がテントを張り水や食料を配布するなど、国民が一体となって行われました。

この市民による非暴力のデモ行進をきっかけに、国軍が民衆側に賛同し、クーデターを起こします。2019年4月、バシール大統領は失脚し、無血で政権を明け渡すこととなりました。

民意を挫いた軍のクーデター(2021年10月)

こうして、民意が勝利したものの、軍が政権を握ることを国民は望んでいませんでした。国民による抗議行動が続き、アフリカ連合の仲裁で、2019年8月、暫定統治を続けていた軍は、民主化勢力と共同統治を行うことで合意します。軍のトップのブルハン氏が統治機構を率いながら、経済学者のハムドク首相のもとで民政への移管を進めることになりました。

この合意では、暫定期間の前半は軍人が国家元首となり、後半は文民が国家元首を務め、2023年暮れ頃には選挙をして正式な政府を樹立する予定でした。しかし、暫定政権の後半、政権のトップを軍から文民に移す予定時期であった2021年10月25日に、軍がクーデターを起こしました。文民である首相のハムドク氏を始め複数の大臣が拘束され、軍が一方的に暫定政権の解散、軍主導の統治評議会の発足を宣言しました。

これを受け民主化勢力は、一方的な措置で受け入れられないと表明し、大規模なデモを実施します。国際社会からもクーデターに対して非難の声があがり、世界銀行やアメリカによる支援凍結や、アフリカ連合によるスーダンの参加停止が発表されました。

これ以降も市民の抗議活動は、今回の軍事衝突前まで、断続的に繰り返されてきました。国軍により催涙弾などを用いて制圧されたり、時には実弾が使われたりすることもありましたが、基本的には平和裏に行われてきました。

文民主導の暫定政権設立に合意(2022年12月)

2021年11月21日、軍トップのブルハン氏とハムドク氏は合意文書を交わし、

・拘束している政治家らを解放すること
・ハムドク氏を再び首相とし、文民による新たな内閣を発足させること
・2023年7月までに総選挙を実施すること

を発表しました。しかし、民主化勢力やクーデター以前の閣僚らは、軍との合意を受け入れられないと表明しました。「流血の事態を止めるため」に復職に合意したと話すハムドク氏ですが、軍への妥協だとの批判にさらされる形となり、2022年1月に首相を辞任しました。

政治的混迷が続いたままクーデターから1年1か月が経過した2022年12月5日、軍側のトップであるブルハン氏とナンバー2であったRSFのタガロ氏(通称ヘメティ)が、交渉を行ってきた主な民主派勢力と、文民主導の暫定政権を設立するための協定に合意しました。具体的な時期は明記されないものの、民政への移行期間は2年と定められました。国際社会からも民政移管に向けた一歩と評価する声があがっていました。

RSFとは?なぜ軍が2つあるのか

こうして、民主化に向けてのプロセスが少しずつ進んでいたように見えましたが、今回、軍内部の権力闘争が、政権移行を阻むことになりました。

そもそも、なぜスーダンの軍部には、国軍とRSFの2つの組織が存在するのでしょうか。それは、前述のバシール独裁政権時代に遡ります。

今回国軍と対立する、RSFの前身は「ジャンジャウィード」と呼ばれた民兵組織で、ダルフール紛争がきっかけで立ち上がりました。

ダルフール紛争とは、スーダン西部のダルフールで2003年に起きた、政府・アラブ系民兵と、反政府勢力の武力衝突です。アラブ系遊牧民族とアフリカ系農耕民族の間で昔からあった水や牧草地などを巡る抗争を背景にしています。2006年にダルフール和平合意が成立したものの争いは収まらず、死者約30万人、難民・避難民約200万人を出し「世界最悪の人道危機」と呼ばれる惨事となりました。

当時のバシール政権は、ダルフール紛争でこのジャンジャウィードを利用し、反政府勢力側を弾圧しました。その後、バシールの後ろ盾により、2013 年にはRSFと名称を変え、特に国境警備隊として活動しはじめます。さらに、2015年には、国軍と共にイエメンとの戦争に軍隊の派遣なども行いました。こうして成長したRSFは、準軍事組織として合法的に軍の傘下に入り、各地に基地を持ち大きな影響力を持ち続けました。さらに、金の貿易などによって資金力も持っています。

こうした歴史的背景の中で、どちらの組織がより権力を持つのか、緊張が高まっていたのです。

そして今、なぜ、軍事衝突が起きたのか

今回の軍事衝突の直接的なきっかけは、正規軍とRSFを統合する計画で合意できなかったことに起因しています。

民主化への過程では、軍部の組織改革を行う必要がありました。双方が権力を委譲することが求められていました。4月の初旬には、この道筋をつけたうえで、民政移管の最終合意に署名する予定となっていました。

しかし合意の予定日は何度も延期され、最終的には武力行使へとつながってしまいました。2つの組織が同意できなかったのは、RSFが正規軍に統合されるまでの期間と、軍が正式に文民統治下に置かれる時期の2つでした。特に統合までの期間については、国軍からは2年、RSFからは10年という期間が提示され、このギャップを埋めることができなかったのです。国軍としては、RSFが国軍以上に力をつけていくのを懸念し、あえて短めの期間を提示したと考えられています。

両者の主張が折り合わないまま、4月13日にスーダン北部のメロウェ空軍基地で、スーダン国軍とRSFとの間で対立が発生しました。ここから急速に緊張が高まり、4月15日首都ハルツームでの銃撃戦に発展しました。

大統領官邸、空港、テレビ局などの占拠をめぐって戦闘が行われました。国軍側はRSF拠点の制圧のために空爆も行っています。大統領官邸周辺は戦場と化し、一般市民が住んでいる場所も攻撃を受けています。

一時停戦の取り決めも守られていない状態にあり、戦況は混迷を深めています。

参考

Aljazeera What’s happening in Sudan?
https://www.aljazeera.com/news/2023/4/18/what-is-happening-in-sudan-a-simple-guide

Aljazeera Sudan unrest: What are the Rapid Support Forces?
https://www.aljazeera.com/news/2023/4/16/sudan-unrest-what-is-the-rapid-support-forces

Aljazeera Timeline: Sudan’s political situation since al-Bashir’s removal
https://www.aljazeera.com/news/2021/10/25/timeline-sudan-since-the-fall-of-omar-al-bashir

NHK国際ニュースナビ 首都で戦闘 アフリカ スーダン なぜ軍内部で衝突?いったい何が?
https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2023/04/19/31078.html

CNN CNN 10: The big stories of the day, explained in 10 minutes 
https://edition.cnn.com/videos/cnn10/2023/04/19/ten-0420orig.cnn

JETRO ビジネス短信暫定文民政府の設立に向けた枠組みに合意(スーダン)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/12/4cd998d872f1bd0a.html

Reuters Factbox: Who are Sudan’s Rapid Support Forces?
https://www.reuters.com/world/africa/who-are-sudans-rapid-support-forces-2023-04-13/