特定非営利活動法人ロシナンテス

活動報告ブログ

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母子保健2023.02.06

プライマリ・ヘルスケアの5原則

ムアプラ村のヘルスケア担当者会議でした。なお、歩いて横断するには1日以上かかる広大な村です。ここに17の集落があり、約8千人が暮らしています。会議では、この地域を支援している医療NGO・ロシナンテスからも、いくつかの提案をしました。

「もうすぐヘルスポストに井戸ができる見通しです。この井戸を管理する委員会を村で作ってはどうですか?ヘルスポストだけでなく、この井戸を利用したいとする世帯がありますから、収集する利用費の管理など必要になります。」

「マザーシェルターに助産師を配置してますが、ヘルスボランティアの皆さんもローテーションを組んで、支援に来ていただけませんか?助産師と一緒に妊婦のケアに関わることで、経験値を高めることもできます。また、妊婦の相談に応じることで、シェルターの質を高めることになるでしょう。」

「ソーラーパネルについて利用ルールを考えませんか?いつ蓄電した電力を開放するのか、これを誰が利用できるのか?本来は出産で来ている女性のために設置したものですから、夜間の出産時に電力がないということは避けなければなりません。」

住民代表の皆さんとワイワイ話している時間は楽しいですね。

担当者会議の様子

プライマリ・ヘルスケアとは

プライマリ・ヘルスケアとは、1978年に採択されたアルマ・アタ宣言において示された方法論です。アルマ・アタとは、WHOとユニセフの合同会議で開催された旧ソビエト連邦の地名(現在のカザフスタンのアルマティ)に由来します。

この宣言では、ヘルスケアを地域に普及させるためには、単に病院を建設したり、薬やワクチンを配布するばかりではなく、地域住民との連帯、地域文化や環境への配慮、そして、政治や経済、教育、開発、宗教、さらに新たなテクノロジーといった他の分野との連携を深めることで、地域の総合的な発展を目指してゆくべきことが確認されています。

では、プライマリ・ヘルスケアとは、具体的に、どのように実践されるのでしょうか? その基本的な柱とされる5つの原則を紹介します。

1)住民のニーズ指向性

地域におけるヘルスケアについて、医療者や援助者が一方的に決めてしまうことはできません。まずは住民のニーズを把握することから始め、そのニーズを満たすことを志向することが求められます。えてして援助者は、自らの「援助したい」というニーズに耽溺しがちなので注意が必要です。ただし、ここで言う「ニーズ(必要)」とは、「ディマンズ(要求)」とは異なります。

2)住民の主体的参加

住民にとって健康とは与えられるものではありません。住民自らが、自分たちにとって重要な健康問題は何であるかを発見し、かつその解決には何が必要なのかを考えなければなりません。さらに、そうした手作りのヘルスケアを自分たちで維持、管理してゆくことが求められます。

3)地域リソースの有効活用

ヘルスケアを実現するにあたっては、その地域にもともと存在しているリソース(人的、物的、制度的)を最大限に活用することが求められます。地域保健プロジェクトとは、何もない荒野を耕し、種を植える行為ではありません。よく大地を観察し、そこにある小さな芽を見出す姿勢が求めらます。大切に育むことで根づいてゆきます。援助者は、「どうせ地域には何もない」とか、「住民には解決能力がない」といった偏見を乗り越えることが必要です。

4)適正技術の使用

住民が利用しうる技術の範囲内において、地域のヘルスケアは達成されなければなりません。ニーズを満たしうる健康戦略であったとしても、その地域で維持管理できなければ失敗します。こうした失敗を回避し、適切なプロジェクトを企画するためには、地域の財源や技術力、電力などのインフラストラクチャー整備状況、気候風土や文化、そして習慣など種々の要素を十分に吟味することが求められます。

5)多分野間の協調と統合

地域におけるヘルスケアは、政治や経済、教育、宗教、そして新たなテクノロジーといった様々な分野と相互に影響を及ぼし合っています。だからこそ、これらとの連携を深めることで総合的な発展を目指さなければなりません。すなわち、プライマリ・ヘルスケアは、自らを包括的な社会システムの発展計画のひとつとして位置づけておく必要があります。

以上・・・ しばしば引用されるプライマリ・ヘルスケアの5原則でした。

当たり前のことなんですが、健康とは自己管理できることが条件です。いくら検査データが良くても、自己管理できていなければ健康とは言えません。医療で縛りつけながら、「データがいいので健康です」という詭弁を弄するべきではありません。

保健医療システムについても同じこと。地域における医療サービスは、病院だけでなく、家庭、学校、企業などあらゆるレイヤーで提供される必要がありますが、いずれにせよ住民によって自己管理されていなければなりません。

途上国であれ、先進国であれ・・・ 支援者が心がけるべきことかと思っています。

ロシナンテス理事/高山義浩