特定非営利活動法人ロシナンテス

活動報告ブログ

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コラム2021.12.10

スーダン・ザンビアでは受診が無料?ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを考える

皆さんこんにちは。インターンの向坊です。

12月12日は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:Universal Health Coverage)デー!

すべての人が、どこに住んでいても、必要な医療サービスを受ける権利があります。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、リハビリなどの医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことを意味しています。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デーは、世界中の人が金銭的に躊躇せずに保健医療を受けられる状態であることを目指し、医療を受けられずにいる人々の話をシェアし、国のトップなどに働きかけ、その重要性を確認する日として制定されました。

(Universalhealthcoverageday.org)

上のマークは、どんな人でも傘の下で守られるということを表しています。収入、健康状況、出身、またはどこに住んでいるかなど関係なく、「誰も取り残さない」という目標を掲げているのです。

最近よく見かける、Sustainable Development Goals (SDGs、持続可能な開発目標) ですが、その一つである、ゴール3「健康と福祉」が2030年までに世界が達成すべき目標として掲げられています。ゴール3は細かく13項目に分かれていて、全ての人が基礎的で支払い可能な保健サービスが受けられるUHCの達成が、8項目目として設定されました。

世界保険機構(WHO)によると、「世界で毎年1億人が、医療健康サービスでの医療費で、重い貧困の状況に追いやられ」ています。例えば、日本の人口約1.2億で考えると、人口の83%が医療への出費によって、次の日のご飯を心配する状況になっているということです。

そして、驚くことに、世界銀行の統計によれば、世界人口73億人に対して、その50%の約36億人基礎的な医療サービスを受けられていないとの結果があります。

日本でのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ

日本では、もちろん場所によりますが、風邪を引けば数十分圏内でお医者さんに診てもらえます。それは、日本が過去、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを推進してきたからです。

1961年のヨーロッパを参考にした国民健康保険法改正により、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、お互いの医療費を支え合うことで、支払いのできない貧困層も医療サービスを受けやすくなる国民皆保険制度が始まりました。また、1973年の一県一医大構想により、当時医学部のなかった県への医学部または医科大学の設置が進み、国民皆保険制度と共に、医療へのアクセスが改善されました。これにより、X線写真やMRI(全身ではなく体の一部)、胃のスキャンなどの高度な器具を使ったとしても、保険でかなりカバーされるようになりました。私の経験では、1万円以上払った覚えがありません。それでも高いと感じていましたが、それが他の国に行くと、どれだけ恵まれているのかがわかってきます。

GDP No.1の国、アメリカの高額医療費が国民の貧困を生む

経済ランク世界1位の先進国、アメリカですが、先進国の中でも、国民の医療サービスの負担が大きいということを聞いた方もいるかもしれません。ちなみに私はアメリカに住んで7年ほどになりますが、体調が悪くて検査を受けたくても、ためらうことがしょっちゅうです。なぜなら、受診して他に細かい検査が必要となると、検査費が保険でカバーされた後でも高額(何万、何十万円レベル)になってしまうためです。それに加えて、年間でカバーされる限度額がありますし、いくらカバーされるかなどは行く病院にもより、受付の方が時間をとって調べてくれるかなどの親切さにもよるので、加入している保険会社に自ら電話をして調べることもしょっちゅうです。胃カメラを受けた時は、10万円以上の請求に加えて、当初の見積もりにはなかった全身麻酔処置費4万円の請求が、3ヶ月後の忘れた頃に届きました。こちらでは、ミリオネアでなければ簡単に病気にもなれません。こういう時に、日本にいた時にいかに日本の保険制度に助けられていたのかを実感します。

日本貿易振興機構(JETRO)によると、アメリカでは保険でカバーされていない国民も多く、高額な医療コストの請求による自己破産が深刻化しているとの調査結果が出ています。 

ザンビアでは国公立病院の受診は基本無料、新しい保険サービスも

アメリカでは医療サービスが整っていても高額で手が届かないという課題を抱えていますが、認定NPO法人ロシナンテスが活動しているザンビア・スーダンではどうでしょうか。

ザンビアでは、2020年からNHIS(National Health Insuarance Scheme)という国民健康保険サービスが開始されました。日本同様に、雇用者と被雇用者が加入者の基本給の1%ずつを負担することで加入でき、被雇用者の家族も条件を満たすことで加入することができます。また、雇用されていない国民も一定の金額を毎月支払うことで加入することができます。国公立の病院はすべてNHIS指定の病院として登録されており、私立病院でもいくつかの病院がザンビア保健省からの要請によってこの国民健康保険によるサービスを提供しています。

もともとザンビアの国公立病院での受診は基本的なサービスと処方薬については無料で、レントゲン等の特別なサービスについては自己負担という仕組みがとられていました。

ザンビアで国民健康保険が始まったことで、精密検査(レントゲン、CT、MRI、エコー)、手術費用、出産費用(帝王切開等も含む)、リハビリテーション、眼科のサービス(眼鏡作成も含む)、がん検診、そして歯科検診等のサービスが無料で受けられるようになりました。

ただし、こういった高度な医療サービスは全ての病院で行われるわけではなく、首都や一部の大きな町の病院での実施になります。

スーダンでも国公立病院の受診は基本無料、しかし国民健康保険の加入手続きの困難さがネックに

もう一つの活動国であるスーダンですが、首都のハルツーム州都市部の国公立病院は、下の写真のように清潔で色々な設備が整っています。そしてザンビア同様、行政が運営する医療施設に限り、診療費、検査、手術、入院費等多くのサービスが無料で受けられます。医薬品に関しては、被保険者が一部自己負担で購入する仕組みです。

       

(日本が支援を行ったハルツーム州都市部の国公立病院、オンバダ産科病院)
(上左右写真:代表川原も活動していたイブン・シーナー病院)
(上左右写真:国公立病院の設備)

しかし、日本と違って皆保険ではありません。日本のいわゆる国民健康保険にあたるスーダンの公的な保険も、低所得者にとっては費用負担が厳しく、利用できていない人も一定数います。また加入するための手続きの情報が入手し辛く、手間がかかるという理由で加入していない人も多くいます。一方、お金に余裕のある裕福層においては、公的保険では医療の質の低い国公立病院しかカバーされないため、民間の医療保険に加入し、私立総合病院(下写真)を受診することが多いようです。 

(ハルツーム州都市部の私立病院、ロイヤルケア病院)

そもそも医療施設へのアクセスが難しい地域も

ザンビア・スーダン両国では、比較的医療機関にかかりやすい環境になっているのですが、共通して言えるのは、都市部と村落部の格段の差が大きいということです。

大都市から離れた村落部などでは、医療施設が行ける距離にない場合も少なくありません。また、医療従事者の海外への頭脳流出と医療従事者が都市部に集中することによる村落部での人材不足、医療機器の不足、メンテナンス不良、そして医薬品の供給が不安定で開業できていない所も多いなど、多くの課題を抱えています。

例えばスーダンの首都、ハルツームでは、外国人や裕福なスーダン人が行くような、お洒落なカフェや私立総合病院などが十分とは言えませんが運営されています(左下写真)。それとは対照的に、都市から離れた村落部は、村を出ると砂漠の先に地平線が見える程何も無く、医療施設がない、もしくはあっても常駐のお医者さんがいない場合も多いです(右下写真)。

(左:首都ハルツームの外国人が行くお店、右:都市から離れた村落部)

広大な場所に点在しているスーダンの村落部において、認定NPO法人ロシナンテスが巡回診察で訪れたある村で、肺炎にかかっていた子どもの親に近隣の医療施設を勧めたことがありました。その1か月後に再び巡回で訪れた際に、医療施設に向かう移動費が捻出できず、子どもを肺炎で亡くしたことを聞きました。もし近くに診療所があれば、助かるかもしれなかった命だったのです。

(医療の整っていない村落部の子供達)

これをきっかけに、私たちは診療所の建設に乗り出し、村人の日常的な移動手段であるロバで行ける場所に決定しました。現在は、ご支援・応援いただいたみなさまのおかげで、アルセレリア、アルハムダ、ワッド・シュウェインの村に3棟を建設し、運営することができております(下写真)。

  (右・左写真アルセレリア診療所) 
(左:診療所内の廊下、右:診察室)

このように、世界にはまだ医療保険サービスが受けられない場所が多くあります。この現状の早期解決を目指すため、国際社会でもユニバーサル・ヘルス・カバレッジを推奨しています。認定NPO法人ロシナンテスも微力ながら、この取り組みに貢献していきます。

  • 過去のUHCのブログを見る↓

2019年「およそ20歳違う平均寿命−スーダンの医療事情を知る」

https://www.rocinantes.org/blog/column/3636/

2018年「スーダンで健康に過ごすために迫られるたくさんの『判断』とは」

https://www.rocinantes.org/blog/column/2575/

  • 診療所建設活動のブログを見る↓

「スーダンの無医村に診療所を建設し、7000人に医療を届けたい!」

https://www.rocinantes.org/blog/clinic/3665/


出典1:厚生労働省「2018年世界保健デーのテーマは『ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ (UHC)』です。」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158223_00002.html

出典2:Universal Health Coverage day.org

出典3:World Health Organization: Universal Health Coverage

https://www.who.int/health-topics/universal-health-coverage#tab=tab_2

出典4:SDGs Journal「SDGs・目標3全ての人に健康と福祉を・満たされるべき基本的人権」

出典5:日本貿易振興機構(ジェトロ)「米国における医療保険制度の概要(2021年6月)」

https://www.jetro.go.jp/world/reports/2021/01/01168598c658e4b0.html

出典6:World Health Organization「UHC Index of Service Coverage(SCI)」

https://www.who.int/data/gho/data/indicators/indicator-details/GHO/data-availability-for-uhc-index-of-service-coverage-(ranking)