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母子保健2022.02.21

「ここで産みたい」と思える診療所を目指してーザンビア活動報告会レポート

2021年12月17日、ザンビア活動報告会がオンラインにて開催されました。チサンバ郡ムワプラ地域におけるマザーシェルター建設完了のご報告を中心に、エコーの導入やボランティアの育成などザンビアでの母子保健事業についてお話ししました。

宿泊場所があるだけで大きく改善される出産事情

医療施設での出産が義務化されているザンビアですが、ムワプラ地域における施設分娩率は未だ39%にとどまっています。その理由のひとつとして、ムワプラ診療所に寝泊まりできる施設がなく、出産の直前以外での受け入れができないという事情がありました。陣痛が始まってから診療所に向かったために、道中での出産を余儀なくされたケースもあります。

ムワプラ診療所の近くに建設されたマザーシェルターは、出産約10日前の妊婦さんを受け入れ、確実に診療所での出産ができるようにするための待機施設です。妊婦さんが出産までの期間を快適に過ごせるよう、ベッドやシャワー、トイレを完備し、プライバシーにも配慮した生活環境を整えています。安心して出産に向けた準備ができるだけでなく、万が一の時にも診療所で適切な処置を受けられる可能性が高まります。

妊産婦さんにとって信頼できる診療所であるために

また、精度の高い産前健診を可能にするエコー診断の導入にも力を入れています。

ムワプラ診療所では、産前健診において、トラウベ聴診器と呼ばれる伝統的な診断器具と触診のみで診察を行ってきました。しかし、トラウベ聴診器だけでは、妊婦さんと赤ちゃんの正確な情報を得ることは難しく、相当な技術と経験が必要でした。そのため、助産師や看護師を対象に、現役の産婦人科医によるエコー研修を行い、リスクの高いケースを早期発見できる仕組み作りを進めています。

さらに、ヘルスボランティア(SMAGs)の育成事業では、寸劇などを利用した妊産婦への啓発活動を通して、地域の人々が主体的に母子保健に携わるための礎を築くことができました。今後も現地のニーズに応じた活動を展開し、妊婦さんが安心して出産できるための環境づくりを進めていきます。

参加者の皆さまとの質疑応答

ご参加いただいた皆さまからは積極的にご質問もいただきました。下記は、皆さまとの質疑応答の一例です。

【マザーシェルターに関するご質問】

出産10日前からシェルターに、ということですが、何日も家を空けることは大変なことだろうと思います。妊婦定期健診ができないなどの理由で出産予定日があまり正確に予測できないということでしょうか?
夫があまり協力的でない、などの理由で家を空けることが難しいという妊婦さんもいらっしゃいます。施設分娩の重要性の認識は浸透しつつあり、今後もSMAGによる知識提供や医療従事者による指導を継続していく予定です。
出産予定日は「必ずこの日に産まれる」日ではなく、あくまで統計学的な出産までの期間をもとに算出されたものです。経産婦(初産婦に比べ出産予定日が早いとされる)が多いこともあり、予定日の10日前から待機することのできる体制を整えています。

マザーシェルターは予約制ですか。その場合、予約が重なった時はどのように受け入れを選択するのですか。
受け入れ期間は出産予定日をもとに決定しています。マザーシェルターではベッドを8床用意しており、今のところ受け入れ数が上回ったという事例はありません。

屋根に断熱材が必要な程暑いのに、朝晩は10度前後でシャワーには温水が必要とはどういうことですか?寒暖差が激しいのですか?
寒い時期と暑い時期の気温の差が激しいです。寒い時期は日中も25℃程度までしか上がらず、朝晩は10℃を下回る時期もあります。逆に暑い時期は一日中30℃を超えているような日もあります。そのため、マザーシェルターは暑さと寒さの両方をしのげるように工夫されています。

ザンビアの出産事情などに関するご質問】

ザンビアの村落部における一般的なお産の形は?
ザンビアでは、国全体で施設分娩率を上げることを目標として掲げており、医療施設での出産が義務付けられています。しかし村落部では、近くに医療施設がない、あったとしても産婦人科医がいないなどの理由で、自宅で出産することを選択する方が多いのも現状です。

わたしの周りでは、最近出産が帝王切開になることが増えたように感じます。ザンビアではいかがでしょうか?
ザンビアでも帝王切開の割合は増えてきているのだそうです。帝王切開は妊婦さんの権利として認められており、ハイリスク分娩だけでなく、陣痛を待たずに早く出産したいというような場合にも帝王切開が行われるようです。

ザンビア全体では、設備面や医療従事者の体制は整いつつありますか?
政府が発表しているデータによると、住民1,000人あたりの医者の数は1.2人、看護師・助産師は1.3人であるとのことです。10年前にはどちらも1人を切っていたことから考えると、医療従事者の数は近年増加傾向にあると考えられます。しかし、医療従事者の国外流出が問題となっていることも事実です。お産ができる施設は増えつつあり、マザーシェルターをはじめとするヘルスポストの建設も各地で進んでいます。

妊産婦死亡が多い理由を知りたいです。
ザンビアの妊産婦死亡率は183/100,000(2019年)で、日本の3.4/100,000に比べて大変高い数字であることがわかります。一般的な原因としては、出産中の大量出血や妊婦高血圧を防ぐことができなかったことなどが理由としてあげられます。出産中にこうした状況になってしまった場合に十分な処置や対応できないということがザンビアのへき地医療の課題です。

ザンビアに日本のような健康保険はあるのでしょうか。また出産費用はどのくらいなのでしょうか。
2020年、国民皆保険制度が開始されました(詳しくはこちら:https://www.rocinantes.org/blog/column/4390/)。これにより、出産に関するサービス(帝王切開含む)も無料で受けることができるようになりました。